サミットについて1
昨年、伊勢志摩サミットが行われた。
サミットとは、英仏米日、独、伊、カナダの7カ国のリーダーが年一回集まる会議だ。今年はイタリアのシチリア島で行われる。
イタリア加入の経緯は面白い。モーロ伊首相が呼ばれてもないのに第一回サミットに来て、仕方ないなあと入れてもらった。イタリアが乱入したせいで上がった西欧比率(4/6)を下げるために、第二回からカナダが呼ばれた。数合わせで合コンに呼ばれるようなものだ。西欧比率は4/7になった。
ロシアが入っていた時期もあった。
89年の米ソ両首脳によるマルタ会談で冷戦が終結したのち、ソ連がちょっとずつ参加し始めた。ソ連はロシアになり、正式メンバーになった。しかしロシアはウクライナへの軍事介入、クリミア半島併合を批判され、2014年から出席停止となっている。
サミットは会議であって、国連組織やASEANのような確固たる組織でなく、事務局もない。条約によって設立されていないため、IGO(政府間組織)ではないが、国際関係論でいう「国際レジーム」(枠組みのこと)だ。
なぜサミットは始まったのか。
サミットは、冷戦下70年代の国際経済の急変に対応するために始められた。直接の原因は主に二つある。
1つはアメリカが金兌換を停止したニクソンショック(71年)、もう1つは第四次中東戦争によって起こった第一次オイルショック(73年)だ。
この両ショックを受けて、フランスのジスカールデスタン大統領が経済政策の協調の必要性を訴え、サミットが始まった。
しかし、このような国際レジームは政策を自分一人で決められなくなることも意味する。(「国家の自律性」の低下)
各国はなぜサミットに参加し、国際会議による(事実上の)制約を受け入れたのか。
サミットの形成、存続変容、効果について国際関係論の考え方から検討する。
国際関係論には、大きく①リアリズム、②リベラリズム、③コンストラクティヴズムの3つの学派がある。(昔はマルキシズムも)
リアリズム
国家は、アナーキーな国際関係の中で、パワー・安全保障を目標に争うと考える。世界政府がない以上、国際法とか人道的規範とか甘っちょろいものは大きな意味を持たない。国際秩序を保つ方法は、同盟などのバランスオブパワーしかないと考える。自国を守るためには、バランスオブパワーによるしかないのだ。したがって、国際レジームが形成されるのは、それぞれの参加国が自国のパワーの増大に役立つと考えるからだ。逆に、自国のパワー増大に不利益と考える国は参加しない。そうすると、国際レジームは現状のバランスオブパワーの反映でしかない。つまり、国際レジームがそれぞれの国家から独立した作用を持たない。国際レジームはバランスオブパワーを変更しない。国際レジームは、国家の政策形成をより協調的な方向に修正する効果を持たない。せいぜい好き勝手喋って帰るだけの井戸端会議程度のものである。
一方で、どの国も秩序は維持されてほしい。そもそもバランスオブパワーは秩序維持のためにある。バランスオブパワーを追認する国際レジームは秩序維持には役立つと言える。秩序を生み出す国際レジームは、公共財(public goods)だ。綺麗な空気と同じように誰もがメリットを受けられる。(排除不可能かつ非競合的)しかし、わざわざ自分が国際秩序形成にコストを払うのは嫌だ。誰かが国際秩序を維持する国際レジームを作ってくれたら、ただ乗りしたいと考える。
じゃあ誰が国際レジームを提供するか。
リアリズムのうち、覇権安定論の視点では、覇権国だ。
覇権安定論では、アメリカのような飛び抜け強い国がいると世界が安定すると考える。キンドルバーガー、ギルピン、オルガンスキが代表的学者だ。
覇権国は自分の利益となるように国際レジームを形成する。コストを支払う意思をもって、他国に対しリーダーシップを発揮し、国際レジームは形成される。飲み会の幹事のようなものだ。覇権国がコスト支払いとリーダシップ行使をやめたら、当然国際レジームは消滅する。
覇権安定論では、
・覇権国が国際レジームを形成する。
・国際レジームは覇権国のやる気が無くなれば消滅する。
・国際レジームに各国の政策を協調的な方向へ変化させる効果は無い。
サミットを呼びかけたのはフランスのジスカールデスタン大統領であるが、覇権国アメリカの利害と合致したのでアメリカがコミットして形成されたと考えることもできる。今の所、サミットを維持するコストがアメリカの国益に見合っているため、アメリカはリーダーシップをとってサミットを維持しているのだろうか。だが今のトランプ政権がサミットのリーダーシップをとっているようには見えないが。サミットは参加国のバランスオブパワーの単なる反映であり、協調を促進する効果はないのだろうか。