国賠1条1項 その①
国家賠償法(State Redress Act)は、たった6条だけのシンプルな法律です。(解釈がシンプルとは限らない…)
行政の行為でなんか損害を受けた時は、国家賠償法1条1項で国に賠償を求めます。最近の、東日本大震災での津波で、先生の誘導が不適切だったから小学生が亡くなったという訴訟はこれだと思います。
第一条
Article 1 (1)
国又は公共団体の
公権力の行使に当る
公務員が、
When a public officer
who exercises the public authority
of the State or of a public entity
has,
その職務を行うについて、
in the course of his/her duties,
故意又は過失によつて
違法に他人に損害を加えたときは、
unlawfully inflicted damage
on another person
intentionally or negligently,
国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
the State or public entity
shall assume
the responsibility to compensate
therefor.
「損害を与える」ってinflict damageっていうんですね。
第十七条
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところ により、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
Article 17.
Every person may sue for redress
as provided by law
from the State or a public entity,
in case he has suffered damage
through illegal act of any public official.
さて、この国賠1条1項の解釈によって、例えば震災での避難行為が公権力の行使にあたるか、とか、
小学校が公立じゃなくて私立でもいけるか、とか、
避難誘導をした先生の故意過失が認められるか、などで賠償
を勝ち取れるか変わってきます。
- 「公権力の行使」(exercise the public authority)とは
判例は、わりと広く解釈してます。(広義説)
一般的な公務員の行為はだいたい含まれるでしょう。小学校の先生の児童の避難誘導は公権力の行使として認められそうです。
2.職務行為
「その職務を行うについて」(in the course of his/her duties)の解釈では、外形標準説をとっています。
例えば、警察官が職務質問のフリをして強盗するとしますね。はじめから強盗するつもりなので、明らかに警察の仕事はしてません。
でも、被害者からすると「なんか警察官に金とられた!」と思うわけなんです。
外形標準説は、職務行為かどうかを判断するのに、それが本当に仕事の一環かどうかじゃなくて、パッと見仕事っぽく見えるかどうかで判断しましょうということです。
なので、おまわりさんが制服着て職質の感じで強盗してきたら、それも職務行為です。でも警官のコスプレした人はもとから警察官じゃないのでダメです。
外形標準説では、職務行為を、「客観的にみてその外形が職務執行と認められる場合」と解釈する。
インターハンデル事件
インターハンデル事件(Interhandel case)は、スイス🇨🇭とアメリカ🇺🇸が争った裁判です。
国際司法裁判所(ICJ)で国際裁判やるためには、「国内法において救済の手段尽くしてから来てね〜😀」という、
国内救済完了の原則(exhaustion of local remedies)がこのインターハンデル事件で確立しました。
どんな事件かというと、
スイス🇨🇭の会社、インターハンデル社がアメリカ🇺🇸に資産を持っていました。
ところが第二次大戦中、アメリカが「インターハンデル社は敵国であるドイツ🇩🇪とつながっている!!💢」と思い込んでその資産を没取しました。
戦後になって、ドイツと繋がってたのは誤解だから、お金返してよ〜とスイスがアメリカに頼むのですが、無視されます。
一応インターハンデル社は、アメリカ国内で裁判もするのですが、どうやら勝てそうにありません。
すると、アメリカはスイスに、
「おたくのとこのインターハンデル社、裁判で負け確定したから😇」
と伝えてきました。
アメリカが言ってきたのだから、アメリカ国内での手段はもうないのだろう(国内的救済は尽くされただろう)とスイスは考えて、ICJに訴えました。
ところが、アメリカがあとから、「いやーすまんすまん。おたくのインターハンデル社の裁判、まだ確定してなかったわ💦」
と言ってきました。おっちょこちょいですね✌️
そのような経緯でICJは
「まだアメリカ国内で裁判確定してないらしいから国内的救済は完了してなくて、ICJは裁判しません!」
と判断しました。
スイス🇨🇭の負けです。
スイスにしてみれば、「いやいや、アメリカが判決確定した言うたから訴えたのに…!!なに考えてんねん!!」
という感じです。
これは、「国内的救済が完了したかどうか」を、アメリカ🇺🇸とスイス🇨🇭のどちらが証明しなくちゃならないか(立証責任、挙証責任)、という問題になります。
ICJはスイスに挙証責任を負わせています。たしかに、スイス政府が自国のインターハンデル社とよく連絡を取れば、アメリカでの国内裁判が実は終わってなかったということが分かったかもしれません。
しかし、裁判制度というものは国によって様々で、どんなやり方があるのか、よその国から把握するのは難しいです。
アメリカの国内法で手を尽くしたかどうか一番わかるのはアメリカでしょうし、アメリカが「インターハンデル社の裁判は確定した」と伝えてきた責任があります。
なのでこのICJの判断はスイスに厳しすぎると思います。この裁判は戦後すぐのものですが、今やると結果も変わってくると思います。
「インターハンデル事件で国内的救済完了の原則が確立した」
ことがだいじです。