音楽は楽しい

深夜に目が覚めて、しかたがないので夜明けまでずっと音楽を聴いていた。

少ししたら寝ようと思っていたのに、YouTubeは本当に無限に時間を吸い取ってしまう。

 

起きてから、吉松隆の曲を聴いていた。

 

吉松隆と言えば、現代音楽では最も知名度と大衆人気のある作曲家の一人だけど、現代音楽マニアにはあんまり受けが良くない、毀誉褒貶の多い人物。

 

滅茶苦茶おおざっぱに言って、20世紀に調性音楽が終わりを告げた。

(バルトークが死に、ストラヴィンスキーはより前衛的な作風へと変化し「古典」を追求する新古典主義は衰退した。あえて言えば、ショスタコーヴィチソ連という政治的異界にあり調性にかろうじて留まる)

 

それ以降“人間の感覚を無視した” 無調性の現代音楽が変態的に発達してきたんだけど、吉松はそれに異を唱えて、「現代音楽撲滅運動」(笑)・「世紀末抒情主義」を標榜した。

 

ベートーヴェンの美しい旋律を聴いて「自分もこんな美しい曲を作りたい!」と作曲家を志しても、時代のせいで評価されるのは、内輪受けしかしないオタク的な無調音楽だけ。調性音楽は、映画やドラマ、アニメやゲームといった大衆文化の劇伴(サントラ)として、余技または生計を立てるための手段としてしか書けない。


Beethoven - Symphony No. 5 (FULL) - YouTube

 

劇伴で有名になったらなったで「大衆に媚びた」「芸術性を放棄した」「商業主義に堕した」と界隈では批判されるし大変だ。

(もっとも武満徹も波の盆や赤穂浪士など優れた劇伴を残しているし、芥川也寸志八甲田山も名曲。伊福部昭ゴジラは言うまでもない)

まさに悲喜劇。


Toru Takemitsu:Nami no Bon 武満徹 「波の盆」 - YouTube


芥川也寸志:「八甲田山」より"終焉" - YouTube


伊福部昭 - ゴジラ (1954) - YouTube

 

 

このある種いびつな構造が顕在化したのが、まさに佐村河内事件だったと思うんですねー。

現代音楽界で高い実力を持つ新垣さんも、調性音楽で人々を感動させたいという思いをどこかで持っていたのだろうな。

現代音楽のそうした理不尽な文脈から自由な存在である、佐村河内という山師。

 

新垣さんは彼の顔を借りることで、いかにもマーラーチャイコフスキーといった“時代錯誤” で“恥ずかしい” 古典的作風の曲を作り、カタルシスを得ていたという面もあるんじゃないかな。


交響曲第1番《HIROSHIMA》~第1楽章 佐村河内 守、新垣 隆 - YouTube

 

 

さて、今日最初に聴いたのはこの吉松の交響曲第五番。


Symphony No. 5 - Takashi Yoshimatsu 吉松 隆 - YouTube

 

第一楽章は、まあ悪くないかなーやっぱり劇伴っぽさあるけどかっこいいかな、という感想。冒頭はベートーヴェンの第五番 運命の「ダダダダーン」のオマージュ。

(最近吉松は「21世紀開き直り楽派」を標榜しているらしいけど、まさにそんな感じだ)

続く第二楽章はほとんどジャズ。やりたい方向性はわかるけど好みじゃないなー。

余談だけど、聴きやすさ重視のクラシックへのジャズの導入はカプースチンが散々やってる。

第三楽章は和を感じさせる抒情的な甘々な感じ。辟易してしまって聴くのをやめた。

 

 

続いて吉松のサイバーバード協奏曲、サックスの協奏曲だ。


Takashi Yoshimatsu - Cyberbird Concerto - YouTube

サックスは新しい楽器だし、クラシックではやっぱり珍しい。というかプログレにしか聞こえないんですが…

そもそも吉松は大のプログレ*1ファンで、かなり影響も受けている。

EL&Pのタルカスをオーケストラに編曲したりもしてる。


Tarkus - Excerpts (2011 orchestral version) - YouTube

 

次に何度も聴いている大好きな曲、「朱鷺によせる哀歌」を聴いた。


吉松 隆「朱鷺によせる哀歌」 - YouTube

吉松の代表作ともいえる曲。滅びゆく朱鷺、そして滅びゆく調性音楽への思いを重ねてる。

調性と無調との、脆くくずれそうなバランスの上にあって、まさに滅びゆく美を感じます!!

 

吉松自身はこの曲について

この曲は最後の朱鷺たちに捧げれられる。ただし、滅びゆくものたちへの哀悼の歌としてではなく、美しい鳥たちの翼とトナリティ*2との復活によせる頌歌*3として

と言ってる。

 

この哀歌ほんとにめちゃくちゃかっこいい。聴きやすいし。吉松作品では一番好き。

現代音楽でこんなに聴きやすくてかっこいい曲ってそうそう無いのではと思うほど。

 

実はこの曲もエコーズなんかのピンクフロイドが音楽的ベースになっているらしい。言われてみれば、なるほどー!と思った。


Pink Floyd - Echoes - YouTube

 

 

鳥は静かに…という曲も似た感じでいい。こっちには哀歌のような悲壮感はない。


Takashi Yoshimatsu "And Birds are still ...

 

 

それから藤倉大武満徹を聴いてたんだけど、そろそろ疲れたのでまた今度。


Tōru Takemitsu - "Sakura" - YouTube

武満徹のさくらの編曲は最高。

*1:プログレッシブロック

*2:調性

*3:古代ギリシャに由来する賛美の抒情詩