蝉の声

蝉の声が好きだ。夏が好きだから。

 

ミンミンと鳴く声、シャーシャーと鳴く声を聞くと、世界が少し違って感じる。

まるで、現実世界じゃないみたいな感覚。エヴァンゲリオンシュタインズゲートひぐらしエルフェンリート。私が好きなアニメはたいてい、夏の物語だった。夏は出会いと別れの季節だと思う。夏休みに旅に出る。東京から実家に帰省する。そして夏は、人間と出会うだけでなく、あの世から祖霊がおとずれる季節でもある。

 

夏はどんな季節だろう?

まだ夏も盛りでない6月に夏至となり、太陽は勢力のピークを迎える。だから、夏とは太陽が老い行き、死へと近づいていく季節だ。

 

夏は力強く、盛大で、そしてまた儚い。騒々しく鳴いていた蝉たちも、気づかないうちに地面にひっくり返っているのだろう。私の目には入らないけれど、一匹も残らず、死んでしまったんだ。

 

 

 

 

 

私は、今年の4月に就職した。26歳、新卒というには遅すぎるかもしれないけれど。東大を出て、官僚になる夢を果たせず、地元関西の企業に拾ってもらった。勤め先は田舎だけど、悪い選択ではなかったなと思う。

 

しっかりした会社だし、優しい。上司も優秀で、目をかけてくれる。新卒の私を東京のコンサルのセミナーにも行かせてくれるし、重要なプロジェクトのメンバーにも入れてくれる。給料はたいしたことないけれど、定時に帰れる。正直、予想していた以上に恵まれた環境だ。

 

でも、ときどき不安になる。私は夢を追いかけるために、就職したのだった。まだ、あきらめていない、f省につとめる夢を。そう自分に言い聞かせている。私は流されやすい。流されやすすぎて、選挙に出かかったり、洗礼を受けそうになっているくらいだ。それでも、流され流され、今の会社で勤めて終わるわけにはいかない。果たして私はまた、憧れだけに目をやって足元をおろそかにしているのか?

 

「ここがロドスだ、ここで飛べ!」(Hic Rhodus, hic salta!)と言っていた。ヘーゲルもAKBも。

 

私は抜け殻を脱ぎ捨てた。羽化した木にしがみつき、地に還るのを待つなんてまっぴらだ。ここで私は飛ぶ。降り立つ場所に降り立ちたいから。