梅田の蔦屋書店で
「北上次郎 × 杉江由次 2018年のエンタメおすすめ本 今年読んで面白かった本をどどーんと紹介」という対談イベントに参加してきた。
と言っても私は大して読書家でもなく、北上次郎さんのお名前も知らなかったのだが、お世話になっている方にお誘いいただいたので、参加することができた。
北上次郎さんは『本の雑誌』の創刊メンバーで、書評家として有名な方だ。
私も『本の雑誌』という名前は知っている。パラパラと立ち読みしたことも、あるような気がする。北上さんはざっくばらんな語り口だった。
対談相手の杉江由次さんは、この『本の雑誌』ただ一人の営業マンで、「炎の営業」という異名で有名だ。
どんなオラオラした人なのだろうと勝手に想像していたのだが、落ち着いた物腰の柔らかい方だった。本に対する熱意は炎の如しなのだろう。
対談のテーマは、今年に出た面白い小説だった。
北上さんは専ら自宅で小説を読み、書評の原稿を書く毎日らしい。
以前は電車中で本を読んでいたそうだが、その取り組みがすごい。もし電車の中で新しい小説を読み始めて、つまらない作品だったらそれから暇になってしまう。だから前日に2冊ほど面白そうな本にあたりをつけ、20ページほど予習をしておくそうだ。
年間数百冊以上読み破る2人の対談を聞いて、「小説って面白いんだなあ、もっと読みたいなあ」と思った。
2人の話を聞いて、これは読もうと思った本は、高橋克彦の『炎立つ』・『火怨』・『天を衝く』の三部作だ。
実はこれは今年の作品ではなくて、今村翔吾の『童の神』という本の話をしているときに、似たテーマの作品として紹介されていたものだ。
この三部作は、岩手県出身の作者が東北を舞台にした歴史物だ。アテルイと坂上田村麻呂の戦いや、前九年・後三年の戦い、奥州藤原氏、戦国時代を描いている。
北上さんが『炎立つ』を読んだきっかけが面白い。
炎の営業杉江さんが飲み屋でおっさんに話しかけられた。このおっさんは杉江さんに「北上さんに薦めといて!」と、なんと2時間も『炎立つ』シリーズの面白さについて語りまくったそうだ。
杉江さんがこれを伝えたところ、北上さんは「いやいや2時間はありえないでしょ」と言いつつ、そこまで言うならとたまたま本の雑誌社に置いてあった『炎立つ』を読み始めた。
そうして飲み屋の出会いから読み始めたのだが、「これはすごい!!」と三部作を読みきったそうだ。
テーマも興味があるし、読むと元気が湧いてくるそうなので読んでみたい。
また東北の歴史を蝦夷視点で描いた作品と聞いて、有名な偽書である『東日流外三郡誌』に影響を受けているのではないかと思った。
「つがる そと さんぐんし」と読む。
少し調べてみると、予想は当たっていたようだ。
天津神を主役とした記紀神話のアナザーストーリーとして、1970年代に「発見」されたものだが、一時期はかなり真剣に考察された。
発見者の和田喜八郎曰く、「家を改築中に天井裏から落ちてきた」ものだ。ウケる。
偽書との評価断定された今でも、関心を持つ人は多い。まつろわぬ民として虐げられてきた東北の視点で描く物語は、なんにせよワクワクするものがある。
誇り高き敗者の物語があってほしいという思いが、東日流外三郡誌の居場所を作り出すのだろう。
やや離れるが、ネイティブ・アメリカンや、アルジェリアなどの植民地を想起した。
文化人類学や構造主義といった、勝者によって編まれた歴史の絶対性への疑問。
そうした世界的思潮の中で東日流外三郡史も捏造されたのだろう。1970年代という時代も納得だ。
安倍晋三の父で政治家の安倍晋太郎が、先祖のルーツを調べたことがある。
信憑性はさておき、安倍家は安倍貞任で有名な奥州安倍氏がルーツだとしている。
晋太郎が家政婦に安倍家のルーツを調査させたところ、先祖安倍貞任が祀られる神社として青森県にある石搭山 荒覇吐神社(せきとうざん あらはばき じんじゃ)がつきとめられた。
安倍晋太郎は、首相を目指し自民党総裁選に出馬した際、晋三含め家族で同社に参った。
しかし実はこの石搭山荒覇吐神社、東日流外三郡誌の発見/制作者の和田喜八郎が1980年に創建した神社であった。
また社宝の安倍頼時の骨とされるものも、クジラの骨と鑑定されてしまった。
この安倍頼時は、前九年の役で蝦夷を率いて源頼義と戦った武将で、奥州藤原氏の初代藤原清衡の祖父でもある。
かなり脱線してしまったが、有名な偽書や安倍晋三首相とも絡みのある『炎立つ』、俄然読みたい。
そのほか、対談で薦められていた小野寺文宣の『夜の側に立つ』を買った。
高3でのバンド、その後のそれぞれの人生を描いた小説。
私も中高でバンドを組んでいたので興味を持った。
それから、イベントに来ていた翻訳者の吉澤康子さんが訳した『コードネーム・ヴェリティ』も買った。
第二次大戦下、ナチスドイツに捕まったイギリスの若き女スパイを描いた作品だ。
積ん読が増えてしまった。