伊勢の神宮参拝

 夜もまだ明ける気配さえ見せない午前四時前、旅館を出て内宮へと歩いた。

伊勢の神宮内宮、日本最高の聖地である。

外宮前にある旅館からはおよそ4キロ。内宮のある南へ歩く道中右手には沈みゆく満月が見え、そういえば明日は中秋の名月だな、と思い出す。

 山の端にかかろうとする月は一層大きく見え、神々しいまでに輝きを放っている。

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おはらい町を抜けて宇治橋にたどり着き、時計を見るとまだ開門まで少し時間がある。あたりを見渡しても開門待ちらしき人は見当たらない。

 

 どうやら一番乗りのようだ。
鳥居と宇治橋が夜の暗闇の中に美しく浮かび上がり、その暗闇も少しずつ青みを帯びていく。鳥居を守る衛士が柵をどけ、午前五時の開門を告げる。

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橋を渡りながら、少し下を見やると五十鈴川が月の光を受けてひっそりと輝いている。橋を渡りきるとそこからの地面には玉砂利が敷かれていて、乾燥しているのかジャリ、ジャリと硬い足音が鳴る。まっすぐ歩き続けて鳥居を抜けた先の右手に、古来禊を行ったという五十鈴川の御手洗場があり、ここで心身を清めさらに歩を進める。

伊勢神宮の社はほぼ全て20年に一度建て替えられる。これを式年遷宮といい、今からおよそ1300年前に天武天皇によって定められその皇后であった持統天皇によって第一回式年遷宮が執り行われた。今年で第62回となる式年遷宮は戦国時代に一時期中断したものの、奈良時代から平成の今まで気が遠くなるほどの長い間社殿が更新され続けてきたわけだ。

参道から手前に見えるのは新しい社殿で、今はまだ遷御されておらず、その奥にある20年前に建てられた方に天照大神がお祀りされている。ここが日本全国に存在するおよそ八万あまりの神社の本宗、日本の総氏神である。石段を上り鳥居を抜けるとそこは聖域中の聖域であり、撮影は禁じられている。日はまだ出ておらず、鬱蒼としてひんやりとしている。前日にも日中に内宮に参拝したのだが、20年に一度の御遷宮であるためものすごい人出で、なかなか落ち着いて参拝することができない。今ここに自分の他誰もおらず、ただ一人で向き合っているというのが最高の贅沢に思えた。

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神宮の御正宮は日本の至高の根本神であるから、個人的な願いは慎み、日本や世界の平和など大きな祈りを行うのが望ましいとされる。私も垣根の奥に坐す天照大神に向けて日本を、世界を正しくお導きください、と祈った。